『彼女の言うことには。』北川悦吏子×スタッフ対談vol.2

「彼女の言うことには。」は、東京公演を終えて現在地方公演中!
残すところ19・20日の大阪公演と22日の福岡公演です。
というわけで、北川悦吏子さんの対談企画の第2回をお贈りします!!

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『彼女の言うことには。』北川悦吏子×スタッフ対談vol.2
「ステージング、小野寺修二の言うことには。」

北川さんによるスタッフ対談第二弾には『彼女の言うことには。』でステージングを担当している小野寺修二さんが登場! 一般の人たちには耳慣れないステージングとは、一体どういうことをする仕事なのか。そうしたお仕事をするまでのいきさつも含め、北川さんがお話を聞きました。演出の永山さんも参加したスペシャルバージョンでお届けします。

Onodera
撮影:石川純
小野寺修二 SHUJI ONODERA 日本マイム研究所にてマイムを始める。95年パフォーマンスシアター「水と油」を結成。全作品の構成演出に関わり、第2回朝日舞台芸術賞寺山修司賞などを受賞。06年活動を休止。同年文化庁新進芸術家海外留学制度研修員としてパリに1年間滞在。帰国後、新作『空白に落ちた男』を発表。ベニサンピットで53回公演を行い、10年にはパルコ劇場での再演を果たす。08年に「カンパニーデラシネラ」を立ち上げ、マイムを基盤とした身体表現でジャンルを超えた舞台表現の可能性を探る。最近の主な舞台演出作品として『オイディプス』(静岡県舞台芸術センター)、『カラマーゾフの兄弟』(新国立劇場)など。また近年は音楽劇や演劇などで振付を担当することも多い。第18回読売演劇大賞最優秀スタッフ賞受賞。


ステージングとはどういう仕事?

北川 小野寺さんの仕事はステージングとうかがってますが、ステージングって舞台作品には、必ずあるものなんですか?
小野寺 ついていないことも多いですね。振付を担当する方がいたら、その方が一緒にやることが多いと思います。今回振付の(松澤)いずみさんもステージングができる方だし。今回僕はステージングとして、座席の動かし方などにアイディアを出しています。
北川 場面転換とかも考えるんですか?
小野寺 永山さんが「あまりごちゃごちゃさせず、すっきり見せたい」と言われたのを聞いて、「こういう風にするのはどうですか?」と、僕の考えたものを観てもらって判断してもらうというか。永山さんのイメージに合わせて提案していく感じです。もちろん、いずみさんもいらっしゃるので、二人で考えたりもしますし。
北川 私はとにかく脚本を書く時点で、飛行機の中だけの作品をやりたいという気持ちが強くあったんですね。飛行機がパリから成田に着くまでの話をやりたいと思ったんですけど、普通に考えたらこれって無茶なんですよ(笑)。
小野寺 はい(笑)。
北川 座り芝居でずっと二人が話をしているだけですよね。そこが不安で本当に苦しかったんです。でも実際にできたものを観たら、飛行機に乗るときや、と離陸後で座席の配置が変わるのがすごく面白くて…、(登場した永山さんに)やっぱり一緒に話を聞くんだ(笑)。
永山 いやいや、私は横で聞いているだけだから(笑)。
北川 一緒に話してくださいよ(笑)。(小野寺さんに)…ああした表現が成り立つまでには、どういうやり取りがあったんですか?
小野寺 まず永山さんのほうで「横の絵と縦の絵がほしい」というのは明確に決まっていて。それを座席を動かしてどう表現するか「やってごらんなさい」と(笑)。
北川 じゃあ、このシーンは客席に対して正面を向く、とかは決まっていたんだ?
小野寺 それは決まってました。そこでシーンを繋ぐためになにをするかを考える。それがステージング…、という言葉に合っているかどうかわからないですけど(笑)。
北川 シーンによって、舞台上が夏来と是枝の二人だけになることもあるじゃないですか。そういうことも決めているんですか?
小野寺 そこは演出家の判断。どこから二人にしたいかという具体的なことは、永山さんから指示がありました。
北川 観ていて、舞台上が夏来と是枝の二人になっても「他の人はどうしちゃったの?」とは全然思わないじゃないですか。それこそステージングの妙なのかなって。
小野寺 それは演出の妙ですね、はい(笑)。ただ「違和感なくやれたらいいな」という部分はあって、急に場面が全然違うものに見えないように、気は遣うんですけど。
永山 俺が「座席が動いて、ダンサーの人たちは飛んでいく感じで」と言うじゃない? そうすると小野寺さんは座席の展開させ方を考えてくれる。そうすると真ん中にダンサーが残ってるでしょ? そこにいずみが踊りをつけていく。
小野寺 永山さんの中に大きな流れがあって、それをどういう絵にするかのパターンをいくつか僕が考えて、それを見て判断していただくんですね。今回のように振付とステージングがいるパターンはめずらしいんですけど、いずみさんと一緒に作れたのはすごく面白かったです。同じ分野でもそれぞれ考え方が違うじゃないですか。だから発見もありましたし。
永山 あと小野寺さんに助けてもらったのは(真矢さんが)「飛んでる?」というシーンだね。
北川 あ、あれもそうなの?
小野寺 あそこはいずみさんから「ここは小野寺さん、お願いします」と言われたので(笑)。「それじゃあ、なんかアイディア出します」っていう。そういうやりとりは二人でがっつりやりましたから。
北川 あそこは最初、上から吊るのかな? と思ってたもんね。
永山 その「飛んでる?」シーンと、後半のオーロラのシーンもお二人にお願いしたんだよね。


座席を使ったステージングの舞台裏

北川 でも数あるステージングの中でも、やっぱり座席の動きが素晴らしいですよね。
小野寺 いやいや、ずいぶんご迷惑をおかけしました(笑)。
永山 どういう座席にするかというところから始まって、大変だったからね(笑)。
小野寺 もうぎりぎりまで…(笑)。
北川 それ、(松井)るみさんに聞いた! 座椅子が中に組み込まれているって。対談でもその話をずっとしゃべってたから、相当大変だったんだろうなって。
永山 今回のテーマは座席だから(笑)。
小野寺 もう本当に(笑)。ただキャスターをつけると、座席が動いちゃったりすることもあるんですよね。だから真矢さんと筒井さんの後ろで乗客を演じているダンサーさんは、いつも二人の座席の位置を調整しているんですよ。
北川 え! どういうこと?
小野寺 座席が決まった場所にないと照明からズレるじゃないですか。だから位置を後ろでなにげなく演技しながら、合わせているんです。
永山 つまり、乗客が客席を向いて並んでいるときは、真矢さんと筒井くんの後ろにRICOとMATSUがいるじゃない? あの二人は前の座席が動いたら位置を元に戻してるのよ。バミった(目印をつけた)ところに、合わせて位置を直していくわけ。それで乱気流のシーンもみんなで「わーっ」となっている演技をしながら、二人の座席をあの位置に持っていって、一番最後に位置がズレれてないか、MAMIKOがちゃんと調整してから舞台から消えている。
北川 そうなんだ! 気づかなかった。
永山 細かいことをやっているわけよ(笑)。夏来も是枝も結構動くしね。芝居の中で。
小野寺 そうなんですよね。立ったり座ったりだけでも座席がズレたりするので。
北川 あんなに座席が動くと思わなかったんですよ。あっちにいったりこっちにいったり、二つになったり散らばったり。それで見せるじゃないですか? 衝撃でしたね。
小野寺 僕もやっていて、すごい可能性があるんだなと思いました。
北川 バランスがいいですね、本当と嘘のバランスが。脚本を書いている段階では、具体的にどうなるのかがわからなかった。もっともっと抽象的な世界になるんだろうなと思っていたんです。実際に観てみたら本当の飛行機の中みたいだもんね。観た人に聞いたら「自分も飛行機に乗ってたような気がする」っていう人が多いんですよ。
小野寺 わかる気がします。
北川 ちょっといいですよね。すごく動きがきれいじゃないですか? それはもうセンスですかね? 動きで見せるというか、動きそのものがショーになっている。
永山 今回はそういうところも見せようという作り方だからね。普通だと暗転してセットチェンジがあって、それでまた幕が開くみたいな感じだけど、今回はその間をまんま見せようという作りだから。
北川 あと、夏来が自分の昔の話をし始めたときに、いわゆるドラマなんかだと、回想シーンになるわけじゃないですか。それを是枝がそこにいて、座ったまま聞いているというのも面白いと思った。あれはやろうとしてもなかなかできないよね。
小野寺 面白いですよね。
北川 「こういうこともできるんだ!」と思って。
永山 でもまあ、舞台だと急にいなくなれないもんね(笑)。
北川 (笑)。そういう制約がすべて、いい方向に働いたんだなと思って。
小野寺 あと、永山さんからはいい意味で「きれいに作りすぎないで、雑な部分を残していい」とおっしゃっていたんですが、その感じはすごく理解できましたね。観客に見せていいよという部分がはっきりしていたので面白かったし、そこはステージングに反映できたと思います。


パントマイムとステージングの共通点

北川 あと小野寺さんには『13歳のハローワーク』的なことが聞きたくて。こういう仕事を目指している人はどうすればいいんですか?
永山 もとは何屋さんだったの?
小野寺 僕は普通に…、商社で働いてました。
北川 ええーっ! 本当に? 大学もそういう関係ではなくて?
小野寺 法学部でした(笑)。卒業したのがちょうどバブルの頃で仕事もいっぱいありまして、セメント関連の商社で営業マンとして働いてました。そこに三年勤めたんですけど…、浮かれていたんでしょうね、辞めたいと思って。それでお芝居が好きでもなかったんですけど、今考えると、なんとなくそういうのをやってみたかったんだろうなと思うんです。
北川 舞台の仕事を?
小野寺 舞台の仕事というか、人前に出たかったんでしょうね。なので会社を辞めてお芝居の学校に行ったりしてました。私塾のような、劇団っぽい学校に行ってたんですけど、そのときにパントマイムっぽいことをやらされたんですね。でもそこで「どうやったらうまくなりますか?」と聞いても「そこは聞いちゃダメ」みたいなことしか言われず(笑)。それでちゃんとパントマイムをやったほうがいいかなと思って、日本パントマイム研究所というところに入って、パントマイムを始めました。そのときは、なにもないのに壁があったり、綱を引っ張ったりするようなパントマイムをやれたらいいなと思ったんですけど、やっていくうちにパントマイムをやろう、という気持ちにすごくなっていきまして。
北川 そこに行ったのは、なにかに影響されてですか?
小野寺 中村有志さんがそこの卒業生なんですけど、僕は中村さんが好きだったので、パントマイムをやるならそこに行ってみようと思って行きました。でも、それで別に食べていこうとかいうのはなくて、ただ舞台をやりたくて。
北川 でも、そのときにはお仕事を辞めているわけですよね? すごく勇気がありますよね。でもプロになるつもりではなかったんでしょう?
小野寺 だから浮かれていた時代だったと思うんですよ(笑)。就職しなくても、仕事がいくらでもあるような気がしてたんじゃないかな。
北川 いくつくらいのときですか?
小野寺 それが27歳。でもパントマイムって営業が多いんです。デパートの屋上に行ったり遊園地に行ったり。だから一人でも仕事になるんです。でも僕にはあんまりそれが向いてないというか…本当につらくて。
北川 (笑)。なんかちょっとわかる。
小野寺 それで舞台をやりたいなと思って、そこで知り合った人たちと「水と油」という団体を作って舞台を始めるようになって。その団体は四人でやっていたんですけど、06年にいったん止めて、一回海外に勉強しに行って戻ってきて現在に至るというか。今は舞台のステージングを担当したり、いろいろな方々とコラボレーションしながら作品を作っている感じですね。
北川 じゃあパントマイムとステージングの共通点ってなんですか? そこがどうつながってるのが気になるんですけど。
小野寺 パントマイムってお芝居とダンスの間にあるジャンルなんですね。動きもあるし、しゃべらないにしても演技をする。だからしゃべるお芝居に関しては僕もわからないですけど…、たとえば僕は今回の永山さんの演出で、飛行機の中で夏来がアイマスクをしているところが大好きなんです。
北川 あのシーンはドラマっぽいですよね。
小野寺 永山さんがそのときにおっしゃってたのは、「映像的に、是枝が夏来を見たらそれでいいよ」ということなんですが、僕はすごくそれがわかると思って。そこで変にせりふでなにかをするより、見るという動きで恋に落ちたのを表現するのって、意外と舞台ではやらないんじゃないかと思って。でも今回、それをやっている。
北川 さっき、この舞台をご覧いただいた堤(幸彦)さんが力説してましたよ。私が「お芝居の脚本が初めてで…」と黒木瞳さんとしゃべっていたときに、「映像と違ってアップが抜けない」と言っていたら、堤さんが「違うよ! アップはちゃんとあったじゃないか!」と言い出して。今、小野寺さんがおっしゃたシーンのことなのかな。「あれはアップだよ、抜いているじゃないか!」と力説してました(笑)。
小野寺 (笑)。だからすごく映像的な演出で、言葉にちゃんと沿っていきながら、絵で見せるのがすごく面白かった。脚本やイメージがあるところから、それをどう具現化するかということについて、すごく勉強になりましたね。そういうところはパントマイムに近い気がします。マイムも踊るために踊るんじゃなくて、なにかイメージがあって動くようなところがある。たとえば風船をふくらませていると、身体も同化していくと思うんです。自分も風船みたいにふくらんでいくみたいな。そういうイメージとともに身体が動くから、急に踊り出す感じは少ないんじゃないかと思うんですね。今回の飛行機の離陸のシーンも、お芝居を延長してつないで表現している。だからイメージがあって動くという部分でマイムとつながる瞬間があるような気がします。でもこういうマイムとステージングがつながるのはささいな瞬間なので、現場では意外とノーと言われることが多いんです、地味なので(笑)。でも今回、永山さんがそういう部分も汲んでくださって。
北川 今回の話って、飛行機で隣り合った人が11時間、一緒にいるという話じゃないですか? だから、普通の飛行機の中という状況で、脚本を書かなきゃいけないという意識があったんです。一度でもその幅からはみ出てしまうと、人って飽きるしもっと振り幅を大きくしてほしいと感じると思うんですよ。だから途中で不時着やハイジャックされたりしちゃいけない(笑)。余りにも苦しくてそれをやりそうになるんですけど。でもこの脚本を書いてみて、そこの幅に気を付けて書いていれば、ささいなことを描いても、作品として行き切れるんじゃないかなと思いました。
小野寺 そう、そういうことなのかなと思いますよね。そんな感覚もパントマイムとつながるものがあるように思います。
北川 なるほど。今日はいいお話をありがとうございました。ステージングの内容がわかったし、その核心に触れられたと思います。
小野寺 僕もお話しさせていただいて、すごく勉強になりました。どうもありがとうございました。

特別企画!『彼女の言うことには。』北川悦吏子×スタッフ対談vol.1

ただいまパルコ劇場にて上演中の「彼女の言うことには。」
東京公演もいよいよ残すところあと5日!!そこで急遽、北川悦吏子さんが自ら、舞台を裏側から支えるスタッフさんたちと対談を決行!!
じっくりとお話を伺ってくださいました。
元々は北川悦吏子さんのブログ用に作成された原稿を、特別にパルコ劇場公式ブログにも掲載!じっくりとお楽しみください☆

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『彼女の言うことには。』北川悦吏子×スタッフ対談vol.1
「舞台美術家の言うことには。」

『彼女の言うことには。』の世界観はどうやって作られているのか? それを探るべく、バックステージで作品作りにかかわるスタッフと北川悦吏子さんによる対談を敢行! 第一回目は舞台上のセットを担当する舞台美術家、松井るみさんとの対談をお届けします。

松井るみ MATSUI RUMI
劇団四季を経てロンドンへ留学。帰国後に舞台美術家としての活動を開始。2004年、『Pacific Overtures』(宮本亜門演出)にてブロードウェイデビュー。05年、同作品デザインで第59回トニー賞Best Scenic Design of a Musicalにノミネート。07年にはOISTATより〝世界で最も名誉ある舞台デザイナー12人〟に選出。『TEA : A Mirror of Soul』(宮本亜門演出)では、サンタフェ・オペラにてオペラ界においてもアメリカ進出を果たす。紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞最優秀スタッフ賞、伊藤熹朔賞他、受賞多数。主な作品に『春琴』(サイモン・マクバーニー演出)、『雨』(栗山民也演出)、『トップ・ガールズ』(鈴木裕美演出)、『GOLD』(白井 晃演出)他多数。


機内をイメージしたセットができるまで

北川 るみさんは、舞台のセットが専門なんですよね。
松井 そうですね。ほぼ舞台で育ってきて…。
北川 私が知っている美術というと、映画やドラマになるんですけど、そことは棲み分けがあるんですか?
松井 ありますね。この間、三谷幸喜さんの『ペッジ・バードン』で、映画美術の種田陽平さんが舞台美術をやられたり、多少はそういうことがあるんですけど。あと舞台だと、美術も客席側からしか見えないというところも、ちょっと特殊ですよね。
北川 そうだよね。映画だとカメラも寄るからね。微に入り細に入り…。建築家とも違うし、建築家とインテリアデザイナーの中間くらいの感じですか?
松井 そうそう。前から見せるという視線の受け方が決まっているので、あとはその裏側をどう嘘をつくのかが勝負どころになります。そこは映像作品とは、テクニックの使い方が違うというか。
北川 小道具とかの担当は、また別の人なんですか?
松井 そうですね。いろいろな場合がありますけど、今回の飛行機の座席は私が担当しています。
北川 あの座席はどこから持ってきたんですか? 本物ですか?
松井 いえいえ、作ったんですよ(笑)。
北川 だってあれ、ビジネスともエコノミーにも見えないもんね?
松井 プレミアムエコノミーの路線のイメージですね。あのシートの上の部分は座椅子でできているんです。
北川 んー!?(笑)。
松井 お家でお父さんがテレビを観るときに座っているような座椅子を買ってきて。それをベースに組み込んだんです。だからリクライニングしてなおかつ軽い。本物の座席も軽いんですけど、それでも実物だとあんなふうに動かして、操作できないんですよ。
北川 そうだよね。わりと軽やかにやっているもんね。あれは座椅子なんだ。わかんなかった!(笑)。そういうのって、どこで作るの?
松井 大道具の会社があって、そこの大工さんに作ってもらってます。
北川 じゃあ実際の座席を見て、「こういう感じかな」って作ったんですか?
松井 そうですね。最初は緑山スタジオに実物の座席があって、それを借りようかという話もあったんだけど結局、使える数が折り合わなくて。ただ、そこに行ったときには実物をビデオに収めて大きさも計って。そのあと私がちょうどロンドンに行ったので、そのときに実際の座席の作りを調べたり、大きさを計ったりしました。
北川 キャビンアテンダントに「もしもし?」とか言われなかった?
松井 そのあたりはちゃんとタイミングを見るから(笑)。
北川 でもね、私、最初に、ただ、紙にえんぴつで描いただけ、みたいなセットの図面を見たときにめっちゃ怖くて。めちゃくちゃダサくなるんじゃないかって…。
松井 ええっ! ドキッ!(笑)。
北川 だって輪切りにした飛行機のイメージだったから。普通の飛行機をイメージしていたから、すごく心配だった。あんなにスタイリッシュにかっこよくなるとは思わなくて。あの図面も書かれているんですか?
松井 最初に絵を描いて、そこから図面に落として。まあ、絵を描くときに最初から3Dで描いていたりしますね。
北川 舞台の難しいところって嘘のつき加減だよね。だから是枝のせりふじゃないけど「やってみんとわからん」という感じがすごくすると思って。
松井 舞台の上に乗ってみてわかることってありますよね。稽古場でやっていても、劇場に入って照明とかも入れてやってみると、違うところが出てくるから、その場で修正していかないといけない。
北川 だから舞台のスタッフって、具体的なところで頭を使うんですね。輪切りになってる飛行機も、実際に舞台で観たらすごく素敵だったんですけど、ああいうのってどうやって考えるんですか?
松井 台本では、夏来と是枝が二人でずっと会話しているじゃないですか。舞台人が読むと、すべてはそこから始まると思っちゃうんですね。だから飛行機全体じゃなく、二つの座席が最初から最後まで主人公、みたいな。そう思うとその二席はセンターに置かないといけない。ただ、劇場に座席が二つだけだと場面がもたないじゃないですか?
北川 うん。
松井 飛行機をサジェッションする要素もほしいと思ったし、あと出演者は5人、アンサンブルを含めても10人しかいないわけです。本当の飛行機だと30人くらいいないといけないんだけど(笑)。だからCTスキャンのように、飛行機を輪切りにした感じがいいんじゃないかなって。
北川 なるほど。セットの色も直観ですか?
松井 そう、最初はメタリックでもうちょっとダークな感じでしたけど、永山さんから「かわいい色がいいな」というリクエストがあって、今の感じになりました。
北川 じゃあもともと、リアルな飛行機の内装は全然考えてらっしゃらなかった?
松井 考えてないですね。
北川 そっか。そこは本当にセンスだよね。劇中でセットが動いたりしますけど、あれも永山さんの指示?
松井 そうですね。あとは「永山さんがおっしゃってるのはこういうことですよね?」とこちらから提案した部分もあります。最初から二人が正面を向いていてもよかったんですけど、飛行機のイメージがインプットされないじゃないですか。横向きにすると、これは飛行機だと観客にもわかるから。
北川 そうなんだ。私、舞台での分業制がちょっとわからないんだけど、そこでステージングの小野寺(修二)さんはなにをやるの?
松井 「舞台をこう転換していきましょう」というのが見えたところで、小野寺さんが登場して、実際にどう動けばいいかフォーメーションを考えてくれるんです。
北川 じゃあ基本的にはそうやって、みんなのアイディアで作っていくの?
松井 アイディアのキャッチボールができるところが、舞台作品の強みだと思うので。基本的には永山さんの演出家としての意向があって、それに合わせて「こういうのはどうですか?」とみんなで提案していく感じですね。


舞台美術家・松井るみの足跡を聞く

北川 ちょっと『13歳のハローワーク』的なことが聞きたいんですけど。どういう風にしてこういう職業に就くものなんですか?
松井 私の場合はずっと舞台が好きで、学生時代から文化祭とかが大好きだったんです。小学校の学芸会でも、模造紙に階段の絵を書いてシンデレラとかやってた(笑)。
北川 三つ子の魂百まで、だね(笑)。
松井 それで美術大学に進学して。
北川 じゃあ絵が描けるんですか?
松井 舞台美術をやっている人は、みんな描けますね。いろんな人が最近増えているから、そうじゃない人がいるかもしれないけど。美大生の頃に早稲田や慶応の演劇サークルで美術をやらせてもらったのが始まりで。ちょうど鴻上(尚史)さんと白井(晃)さんが卒業した直後ぐらいの頃です。
北川 それで卒業してフリーに?
松井 いや、結構アンダーグラウンド系でやっていて、暗黒舞踏とかもやっていたんですけど、卒業後は「裏切り者」と言われながら、劇団四季に…(笑)。
北川 わかりやすい裏切り者だ(笑)。でも、だから華やかなものを作れるのかな?
松井 それもあるかも。大学時代のアングラのままだと、ちょっと違ったかもしれない。
北川 劇団四季だと製作費も違うんですか?
松井 当時は「好きなだけ使っていいぞ!」時代だったんで。私は『キャッツ』の上演が始まった翌年くらいに入って、青山劇場のこけら落としの『ドリーミング』(85年)では、「いくら使ってもいいぞ、お前たち!」みたいな…(笑)。今だとありえないですけどね。
北川 へええ! 今はそういうのはないの?
松井 ないと思いますよ。それで劇団四季でいろいろなミュージカルを…、『オペラ座の怪人』をやっていたので、世界中のミュージカルの画をみたり、図面を描いたりするんですね。そうしているうちに「日本にいる場合じゃない!」と思って、1年間だけですけど、ロンドンで舞台デザインの勉強をして現在に至る、みたいな。
北川 かっこいいね!
松井 今だとインターネットでなんでも見られるじゃないですか。あの頃はそうやって現地に行かないと見られなかったから。行ってみたら観たことのない芝居、観たことのないミュージカルやオペラばかりだった。
北川 それは美術も違うの?
松井 違いますね、豪華だし技術的にも全然上だし。
北川 私もこないだバリに行って思いましたけど、美術だけじゃなく街が違うよね。だってマクドナルドがモスグリーンなんだよ。赤だと景観を損なうからって。そういう感覚の街に暮らしていたら、いろいろ違ってくるだろうね。
松井 あとは照明とかも違いますしね。感性がやっぱり豊かになるというか。
北川 パリには映画の撮影で行ったんですけど、どこで撮ってもステキで、「ロケハンしなくても、どこ撮ってもOKでしょ」って(笑)。
松井 (笑)。映画はいつ封切りになるんですか?
北川 10月です。これから編集したりするんですけど、こんなに私、舞台にかかりきりになるとは思ってなくて(笑)。でも手がかかる子ほど…。
松井 かわいいよね(笑)。
北川 やっぱりかわいくなっちゃうよね、これだけ手をかけていると。魔法だよね、これって。ドラマのときは別に私が出ていかなくても、どうにかなっていくんですよ。でも、舞台はそうはいかないのをひしひしと感じる…(笑)。あと舞台は公演期間中、ずっとやっているのがかわいいよね。ずっと生身の役者さんがやっているんですよ? ドラマや映画は一回きりで、撮ったら終わりだけど。
松井 そこは大きな違いですよね。
北川 絶対違うと思います。公演中の舞台のことを考えると「大丈夫かしら」と気持ちがぞわぞわしてしまう。だから公演が終ったときがすごく怖い。だってさ、DVDにも残らないんだよ? そして二度と同じようには再現不可能でしょう? だから知人へのご案内には、そのことも書きましたね。「自分の一部が消えていってしまうような気がするから、DVDに残す代わりにあなたが観て、心の片隅にある本棚に入れてください」って。
松井 そんな素敵な言葉を読んだら、観ないわけにはいきませんね(笑)。


舞台作品にかかわって、気づいたこと

松井 北川さんは何回かこの舞台を観ているうちに、変えたくなってきたところとかはありました?
北川 初日はとにかく感動してしまって、それどころじゃなかったんですけど、何度か観ているうちに欲が出てきた部分はあります。でも作家であって、演出家じゃないからね。そこはちょっと遠慮していて。
松井 でもサイモン・マクバーニーの『春琴』とかだと、毎日台本が変わるんですよ。シーン1とシーン5が入れ替わったり。役者のポジションも全然変わるし、変わることで緊張感を持続させるんです。周りのことはまったく考えずに、「こうなったほうがいいと思ったら変えるのが演劇だ!」みたいな。だから変えちゃってもいいんじゃないですか? …といったらプロデューサーに怒られちゃうか(笑)。
北川 (笑)。やっぱり立場が作家だからね。でも私が舞台の演出をするとしたら、変えるだろうね。毎日毎日、ちょっとせりふを変えようか、とか。
松井 口立てですね。
北川 でも私、全然芝居ができないんですよ。
松井 いやいや、こういうせりふを言ってと伝えれば大丈夫(笑)。
北川 でも映画の監督さんって、自分で芝居ができる人が多いんですよ。「こうやってせりふを言って」って。自分でお芝居して見せる。私、それだけのために役者をやりたいと思ったもん。一回でいいから。役者の生理が知りたいと思ったんだよね。
松井 でも、俳優も向いてそうじゃないですか。
北川 一回本当にね、ワークショップに行こうかなと思って。鴻上さんの(笑)。
松井 いいかもしれないですね。
北川 鴻上さん、やさしそうだし。
松井 え、そうですか?(笑)。あと私はゲネプロのときに客席にすごく感動している人がいて「あれは誰なんだろう?」と思っていたのが北川さんだった(笑)。
北川 小野寺さんにも言われたよ、「こんな人いない」って(笑)。「自分で本を書いておいて、こんな感動してるなんて」って。とにかくすごく怖かったんですよ。ずっと飛行機の中で、二人が座席に座ってしゃべっているという本(脚本)を書いたんですけど、それが成立するかどうかというプレッシャーがすごくあったし。だから実際に舞台になったものを観て、こういうふうに表現をするんだということに感動した。
松井 舞台だからもっと表現が不自由なんじゃないか、という感じでした?
北川 ああいう手があるとは知らなかったから、ものすごく怖かった。あと飛行機で隣合って、パリから成田につくだけ、の話なんて、「最初から冒険しないほうがいいんじゃない?」と永山さんから言われてたし。
松井 そんなことないでしょう(笑)。
北川 でも最初で最後かもしれないから、やっぱりやりたいことをやってもいいかなって。悩んだ時間が長かった分、最初に舞台になったのを観たときはうれしかった。「こういう手があったのか!」って。
松井 でも、舞台の人間としては「こんな無理難題、どうするんだ」という台本のほうが面白い部分もありますよ。
北川 絶対そうだよね。普通に展開していく話より。
松井 舞台の台本の書き方というか、流れってあるじゃないですか。でもそうじゃない「こんな無理難題、シーンもむちゃくちゃ飛んでどうするの?」みたいな部分のある台本も演劇的に表現することはできるから。そこは演劇的に〝飛んで〟しまえばいいと思うし。
北川 でもそれが具体的にどうなるのか、観せられてなかったから最初は怖かったよね。るみさんは、舞台をやっていて一番幸せなときって、いつですか?
松井 やっぱり、初日が開いたときですね。
北川 そうなんだ。でも確かにそうやって区切りがあるのがいいのかもしれないね。
松井 初日のあとには終わりもありますしね。
北川 終って消えちゃうものね、舞台って。あと私は初めて舞台の台本を書いたんですけど、初めての舞台作品がパルコ劇場ってすごいことなんだなって。
松井 小劇場の世界だと最初からパルコ劇場で、というわけにはいかないですよね。
北川 その辺りのことがよくわかっていなかったんだけど、そういう意味ではすごく恵まれてました。
松井 この作品の雰囲気も、本当にパルコ劇場にぴったりだし。
北川 そうだよね。だからここが舞台作品すごろくのスタートだと思っていたんですけど、今は気づいたら、もうゴールにコマが置かれていたような感じが(笑)。初めての舞台作品がパルコ劇場でよかったって思います。

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(左:松井るみ 右:北川悦吏子)

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