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【ぴあ×パルコステージ特別企画】『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』尾上右近密着取材 vol.6】ゲネプロ レポート

現代劇に初挑戦する歌舞伎役者・尾上右近さんに密着してきたこの企画もついに最終回。開幕前日に行われた公開ゲネプロと囲み取材のレポートをお届けします。尾上右近という役者の、そしてこの『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル〜スプーン一杯の水、それは一歩を踏み出すための人生のレシピ〜』という作品の成長を目の当たりにすることができたゲネプロ。本番でのさらなる進化を、ぜひその目でお確かめください。

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また、今回は、登場人物のうち、コカイン中毒者が集まるサイトのメンバー、マデリーンを中心としたストーリーをご紹介。日本で生まれてアメリカに里子に出されたという過去を持つ彼女は、日本初上演となるこの作品の観客にとって、大いに親しみを感じさせる存在となるはずです。

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■STORY■

[オランウータン]というハンドルネームで、エリオット(尾上右近)の実母・オデッサ(篠井英介)が運営するサイトのユーザーとなっているマデリーン(村川絵梨)。ここしばらくログインがなく、仲間の[あみだクジ]ことウィルスキー(鈴木壮麻)も心配していたところ、久しぶりに登場した彼女は、今、日本にいるのだと打ち明ける。マデリーンは日本の釧路で生まれた日本人で、生後9日目に里子に出され、アメリカで育っていたのだ。そして、コカイン中毒から抜け出そうと里親にすべてをさらし、彼らから送られてきた片道航空券で日本へと飛び立ったマデリーン。だが、生みの親の居場所を突き止め、そこに向かおうとするも勇気が出ない。そんなとき助けを求めたのが[あみだクジ]だった。ふたりがオンラインの世界を出て現実につながろうとしていたその頃、アメリカでも、エリオットの育ての親が亡くなったことをきっかけに、彼の従姉のヤズミン(南沢奈央)、サイトの新メンバーである[ミネラルウォーター]ことジョン(葛山信吾)を巻き込みながら、エリオットとオデッサにも変化が起ころうとしていた。

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■公開ゲネプロ レポート■

エリオット(右近)と従姉のヤズミン(南沢)が生活しているリアルな世界と、エリオットの実母オデッサ(篠井)が管理している、薬物依存からの克服を目指す人々が集うオンラインの世界が、交錯しながら進んでいくこの物語。

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ゆるやかに傾斜した八百屋舞台には、[俳句ママ]ことオデッサの自宅ソファ、[あみだクジ]ことウィルスキー(鈴木)の会社デスク、[オランウータン]ことマデリーン(村川)がいる札幌のインターネットカフェの椅子が埋込み状態で配置されています。そこに、エリオットが働いているサンドウィッチショップや、ヤズミンの勤め先である大学の教室など、様々な装置が舞台袖から現れ、ふたつの世界は違和感なく切り替わっていきます。

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ログオンとログオフの音も効果的。俳優たちの身体表現を伴うチャット・ルームでの会話は彼らの心情をリアルに伝え、なかでも、プライドが高そうな[ミネラルウォーター]ことジョン(葛山)が新しく入ってきたときの[あみだクジ]と[オランウータン]のあからさまな冷ややかな態度は、観客も共感を覚えざるを得ないようなおかしみが漂ってきます。

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また、そんなユーザーたちを包む[俳句ママ]が、作品に温かさをもたらしてくれます。

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だが、リアルな世界ではオデッサも、さらにギスギスした人間関係にさらされてしまいます。息子のエリオットが、育ての親の死をきっかけに会いに来るのです。Photo_13

そこで見せる右近さんの芝居には圧倒されます。オデッサのコカイン中毒が原因で自分は見捨てられたのだと、タイトルにある“スプーン一杯の水”をめぐる話を告白するエリオット。オデッサを冷たくにらみつける瞳、その目に浮かぶ涙が、彼の激情を台詞以上に雄弁に語ります。

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さらには、気の置けないヤズミンとの会話で見せる豊かな表情や、イラク戦争で抱えたトラウマを象徴する幽霊(陰山泰)に対する慄きなど、初めての現代劇にもかかわらず、実に繊細に心を動かしていることが見てとれる右近さん。

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それに呼応する南沢さんの包容力がまた、どう生きていいのかわからなかったエリオットの背中を押していきます
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面白いのは、この物語の世界では最も爪弾きにされていた[ミネラルウォーター]が、息子に怒りをぶつけられたオデッサを支える存在となり、それとともにみんなが一歩を踏み出していくこと。どんなに弱くてもどうしようもなくても、誰もが誰かの力になり得るし、自分で自分を動かすことはできるのです。それぞれがどんな道を見出し、エリオットがどんな希望をつかむのか。彼らの一歩はきっと、観る側にも強い足跡を残すはずです。
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■囲み取材■

ゲネプロ終了後、キャスト7名が全員揃い、取材に応えました。
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まずは歌舞伎にはないゲネプロを経験した右近さん。「厳しい空気を感じ、精神状態は完全にオーバードーズでした(笑)。明日からの本番は、お稽古でみんなで作り上げたことを守りながら、そのときに起きる自分の感情を乗せてとにかく踏み出してみようという気持ちでやっていきたいと思います」。右近さんのその心境を聞いた村川さん。「普段堂々とされていて緊張とかしないんだろうなと思っていた右近さん……この現場では“けんけん”ってみんな呼んでるんですけど……けんけんが今日、『ヤバイ、吐きそう』って言ってたので、ちょっと安心できました(笑)」と笑わせました。

作品については、南沢さんが「読めば読むほど、『この台詞はどういう意味なんだろう』と謎が生まれてきて、みんなでディスカッションしながら理解を深めてきた作品です。それが実際に観てもらってどう伝わるのか、すごく楽しみ。人種も環境も違う登場人物が、最後には人とのつながりの温かさを感じていく。そんな普遍的なところがつながればいいなと思っています」とアピールします。葛山さんも「お客さんの反応に乗せられて自分たちもまた変わっていくと思います。どういうお芝居になるのか、本当に楽しみな作品です」と続け、陰山さんは「手強い脚本ですが、読んだときにこれは絶対面白くなるぞという予感がありました。また、僕の幽霊という役は、ちょっとずつ出てきて、実はスプーン一杯ずつ水を与える役ではないだろうかと思っているので、これからまだまだ深めていきたいと思っています」と真摯に話します。ネットの世界の住人を演じるうえで、「空間の取り方に苦しみ悩んだ」というのは鈴木さんです。「ネットと現実での人間の関わりというものがどんなふうに伝わっていくのか楽しみですし、僕の役も最後に現実の世界で人と関わる瞬間があって、そのとても愛おしいひとときを大事にしながら、みなさんと素敵な舞台を作っていきたい」と語りました。

そして、エリオットの実母オデッサ役を女形として演じる篠井さん。「演劇ならではの女形です。みなさんの想像力を掻き立てるように演じて、この母子の関係の、とても微妙な細やかな綾が伝わるといいなと思っています。たぶんみなさん、『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』って何のこっちゃという感じだと思いますが(笑)、その答えを確かめにぜひ劇場にいらしてください。内容は少々重いかもしれませんが、私たちのチームワークの良さと温かさがわんわんと出るはずですし、泣けますよ(笑)」と観客に向けて、やさしさとユーモアあふれる呼びかけをしました。

最後に右近さんが締めくくります。「現代劇の難しさは型がないことにあると感じています。歌舞伎には洗練された型があって、初役でも先輩から型を教わってその役として存在できますが、現代劇では自分で型を作ってそこに存在しなければいけない。それはまだ未完成だと思いますし、僕はもちろんのこと、第一線で活躍なさっている百戦錬磨の先輩方ももがきながら作ったお芝居ですので。千穐楽の大阪公演までもがき続けながら、みなさんと一緒に走り抜けたいと思っています」。

右近さんはこれまでも、大きな壁を力に変えてきました。この密着企画でも、緊張をバネにしていると何度も語ってくれました。ひとりの役者のその飛翔を目にするチャンスは、そうそうあるものではありません。皆さんにもその瞬間に立ち会っていただきたいです。

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「ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル」パルステ!会員の観劇レポートが到着!

現在、紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて、「ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル」東京公演が絶賛上演中です。

PARCO STAGEのスマホアプリ「パルステ!」では、ゴールドステージ・シルバーステージ会員の中から抽選で決定したお客様を観劇レポーターとしてご招待し、作品のご感想をお寄せいただく試みを行っております。
今回、「ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル」の観劇レポートが到着したましたので、会員の皆様だけに公開するのは勿体ない!と、特別にPARCO STAGE BLOGでもご紹介してみることにいたしました。ご承諾いただきました会員のお二人に心より感謝申し上げます。

既にご観劇済の方はご自身の感想と比べながら、また、まだご覧になっていない方は「このような観方もある」というご参考の一つとして、お読みいただけましたら幸いです。そしてご観劇後には、あなたご自身のご感想も、ブログやSNSで綴ってみていただけたらと思います。

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「ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル」初日拝見しました。
翻訳劇はちょっと苦手意識があり、最初はまくし立てるような台詞の多さにたじろぎましたが、気がつけば、どんどん話しに引き込まれていました。
重いテーマではありましたが、ラストではホロリとさせられ、後味の良いお芝居でした。
尾上右近丈、現代劇初挑戦とのことでしたが、何の違和感もありませんでした。エリオットの不安や苛立ち、凄く伝わってきました。これからのご活躍も期待しております!

(珊珊さん)


 まず、この作品での尾上右近さんの役柄がイラク戦争の帰還兵ということを知り、ああ、これはアメリカ映画などでお馴染みの、大義があったとは言え、自らの手で人を殺めてしまったことによるPTSD/トラウマの話だろうな。もしかすると、さらに踏み込んで戦争が残したものや命の尊さを問う作品になるんだろうなと勝手に思いながら観劇開始。

 しかし、そんな先入観は開演後すぐに崩壊。イラク戦争によるトラウマというのは登場人物の一人であるエリオットが抱えている問題に過ぎず、他の登場人物は、それぞれ別の問題(悩み)を抱えていた。ドラッグ(コカイン中毒)だ。彼/彼女たちは、エリオットの実母である篠井英介さん演じるオデッサ(ハンドルネーム:俳句ママ)が管理するサイトのチャットルームで繋がっていた。時に罵り合いながら、時に慰め合いながら。バーチャルな空間で、顔すら合わせないまま・・・。

 そんなバーチャル空間に新たな人物。薬物中毒に悩むジョン(ハンドルネーム:ミネラルウォーター)がアクセスしてきたことで、チャットルームでのやり取りは新展開を見せる。

 一方で、サブウエイで働くエリオットにも別の事件が起きる。育ての母であったジニー(オデッサの姉)の体調が急変し、急逝してしまうのだ。

 ここからはオデッサ(ハンドルネーム:俳句ママ)を中心に、オンライン上の人物(俳句ママ、ミネラルウォーター、あみだクジ、オランウータン)と現実世界で悩みながら生きている人物(エリオット、ヤズミン)の話が交錯し、それぞれがそれぞれの反応/行動を取ることになる。これ以上書くとネタバレし過ぎるので、あとは観劇してのお楽しみ。

・・・ということで、ネタバレにならない範囲の抽象的な表現で感想を。

 個人的に(勝手に曲解して)面白いなと思ったのは、第一幕は、

  Addiction,Addict(中毒)
 
 の話で進んでいたのが、第二幕の途中から、いつの間にか、

  Addicted To <e.g. You>(病みつき=愛情、夢中)
 
 の話に転がり始めたことだ。
 
 バーチャルな関係性を保っていた登場人物(俳句ママ、ミネラルウォーター、あみだクジ、オランウータン)は、この物語を通してリアルな現実と対峙することで、ネガティブな意味の「Addict」からポジティブな意味の「Addict」へと変容した。

 その触媒となったのは、リアルな世界で苦しんでいたエリオットとヤズミン。
この二人がジニー急逝を機に、これまで関わらないようにしていたオデッサ(俳句ママ)と会い、エリオットは昔から心の中に澱のように積もっていた自分の気持ちを吐露、一方のヤズミンは「赦す」ことで、以前よりは自分の心の闇が晴れ、次のステップへ進むキッカケとなった。

 メンタルケアでよく使われる「認知行動療法」。それは、ものごとの捉え方を変えてみることから始まる。よく採り上げられる例だが、「コップに水が半分入っている」状態を見て、ある人は「もう半分しか残ってない」と思うかもしれないが、ある人は「まだ半分も残っている」と思う。出来事・状況・対人関係といった「環境」は変えられなくても、自分自身の考え方(認知)や行動は変えられるのだ。

 この作品のタイトルは「ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル」。「たったスプーン一杯の水」と捉えるか、「スプーン目一杯の水」と捉えるか。生きていくために必要なものなんて、実はそんなに大層なものではないのかもしれない。


(twinkleoceanさん)

twinkleoceanさんのレポートは、こちらのnoteの記事でもお読みいただけるとのことです。


「ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル」当日券は毎公演開演の60分前より当日券を販売いたしております。
22日の東京公演千秋楽、8/4(土)の大阪大千秋楽まで、「ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル」応援のほど、どうぞ宜しくお願いいたします!

【ぴあ×パルコステージ特別企画】『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』尾上右近密着取材 vol.5】尾上右近×篠井英介対談

現代劇に初挑戦する歌舞伎役者・尾上右近さんに密着しているこの企画。第5回目は、右近さん演じるエリオットの実母・オデッサ役の篠井英介さんとの対談をお届けする。ふたりが語り合ったのは実は稽古初日。にもかかわらず、早くも打ち解けた穏やかな雰囲気がそこにはあった。それは、この作品の登場人物たちが、心の奥底にやさしさを持ち、人とつながろうとしているからこそ、生まれてくるものなのかもしれない。

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そして、今回は、その篠井さん演じるオデッサを中心としたストーリーを紹介。エリオットとオデッサの関係を知ると、今回の対談をさらに味わい深く読めるはず。もちろん観劇の際の感動もより大きくなるに違いない。

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■STORY■

オデッサ(篠井英介)はフィラデルフィアに住むプエルトリコ人。トイレ掃除婦の仕事の傍ら、ドラッグ中毒から立ち直ろうとする人々が集うチャット・ルームの管理人をしている。彼女自身も[俳句ママ]のハンドルネームを持ち、日本の俳句の形式で、ユーザーを勇気づける言葉を発信。さらには、チャットを飛び出してユーザーと会い、施設を紹介するなどのケアも行っていた。彼女をそこまで掻き立てるのは、自身も中毒者だったからだ。しかも、その中毒のために、ウィルス性胃炎にかかったふたりの子どものうち、娘を死なせた過去がある。5分ごとにスプーン一杯の水を与えなければならなかったのに、子どもたちを放置して失踪してしまったのである。かろうじて生き残った長男のエリオット(尾上右近)は、オデッサの姉ジニーに育てられることになったが、やがてジニーががんで亡くった。葬儀用の花代を徴収しようと、エリオットがいとこのヤズミン(南沢奈央)とともに訪ねてくるも、ユーザーのためにお金を使い果たして無一文の彼女には、パソコンを手放すことしかできず、そのためにチャットができなくなった。そして、息子と会ったことで過去が甦り、6年ぶりにコカインに手を出してしまったオデッサ。オーヴァードーズで倒れているところをエリオットとヤズミンに発見され、新米ユーザーの[ミネラルウォーター]ことジョン(葛山信吾)に介抱されることになる。

 

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■尾上右近×篠井英介 対談■

 

  • 生々しく生きているエリオット

 

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右近 今日の本読みは、最初、かなり緊張してガチガチだったんですけど、みなさんの声を聞いているとイメージが膨らんできて、途中からすごく楽しくなってきました(笑)。

篠井 右近さんもフレッシュで素敵でした。演じる側としてはとても難しい本なのに、自分の手に少し入ってるような感じがして、聞いていて楽しかった。

右近 現代劇が初めての僕としては、何がどのように難しいのかあまりわかってないんですけど。篠井さんをはじめみなさんが、『これは難しい』とおっしゃるということは、エライことに挑んでしまったのかもしれないなと思いつつ(笑)、でも、その分、ワクワクもしています。

篠井 演じる側にとってこの本が大変だというひとつは、それぞれ抱えているものは大きいんだけど、みんな本心を素直に出さなくて、ひねくれたものの言い方しかしないところなんですよね。エリオットとオデッサもそうじゃない? オデッサにとってエリオットは、娘を亡くしてしまったから唯一の子どもで、すごく愛しているのにわだかまりがあるし、エリオットも母の愛を望んでいるのに、オデッサを母親と認めたくない。そんなふうにほかの登場人物もみんなどこか屈折しているでしょ。だけど、ただのイヤな人たちじゃなくて愛おしい人間たちっていうふうに見えなきゃいけないし、かといって、『本当はいい人なんです!』なんて出しちゃうのも変だし面白くない。だからそこが、僕たちがこれから作っていくうえでは大変で難しくて、でもやりがいもあるっていうところになるなと思うんですね。

右近 ただ、今日の時点で、文字で読むのとみなさんの声で聞くのとでは全然ニュアンスが違うなっていうことは感じました。たとえば、オデッサが、姉のジニーが亡くなったことを新聞の死亡記事で知ったところとか、ジニーへの愛情とか家族の絆みたいなものをすごく感じたんです。それを観客は知ってるのにエリオットは確認できない。だから、そのもどかしさや根底にある人の気持ちの温かさを、観る方が感じられるように演じられたらいいのかなというようなことを思いましたね。

篠井 たぶんお客様はエリオットを見ながらこのお芝居に入っていくんだろうなと、今日聞いてて思いました。あとの人たちはもう、ネット上のチャットで、意地悪なことや訳のわからないことを文章で書いているから(笑)、なかなか本心がつかみにくいけど、エリオットがいちばん、ありようとして、生々しく生きている人間っていう感じがしたし。それがすばらしいと思いました。

右近 うれしいです。でも、ホントそうですね。ナマでしゃべるのと文字にするのとでは伝わり方とか速度が違うっていうことも、ひとつこのお芝居のキーになるのかなとは思いました。文字にすると言っても手紙とネットでは全然違いますし。思わぬところで人を傷つけることもあるっていう、現代のネット社会のありさまも、この芝居が提示していることなのかなと思います。

 

  • 歌舞伎役者の持つ力

 

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右近 最初に篠井さんがお母さん役だと聞いたときはすごくうれしかったです。男だけでお芝居するのが常識のなかで育ってきた僕としては、やはり、女形さんがいらっしゃるのは安心できるというか。自分の助けにさせていただけるだろうなと思ったんですね。

篠井 でも、僕としては逆に、せっかく現代劇で女性と芝居できるのに、『また女形かよ』と(笑)、そう思われてるんじゃないかなと心配してたんです。だから、そんなふうに言っていただけるのは本当にうれしいですし。僕はやはり本業が女形だと思ってきましたからね。現代劇で女優さんに混じって女の役をやって、それでも不自然じゃなく、その作品の役に立ちたいと、そんな思いでずっと何十年もやってきたので。今回も、ちゃんとやれないと、今までお前は何をしてきたんだっていうことになるなと思ってるんですけど。

右近 僕、篠井さんがスーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』の名古屋公演を観に来てくださったとき、すごく緊張したんです。あの公演では、主人公のルフィとハンコックという女帝の二役を早替りでさせていただいてたんですけど、漫画が原作の現代的な歌舞伎なので、古典の女形とはまた違うスタンスというか、より自然な女形を演じなければならないという一面もあったので、現代女形の篠井さんが観てくださると思うと、自分に足りていないものにすごく敏感になってしまって。デフォルメという意味では、古典よりも守ってくれるものが断然少ないですから。

篠井 そういう意味では、ああいう新作の現代的なものをやればやるほど、その人の持ってるものが出るんですよね。だから、右近さんを拝見して、品格と実力が感じられたのがとてもすばらしいなと思って。古典がきちんとできる人だから、こういう現代的な作品もできるんだなと思いました。

右近 自分がそんなところまでいけてるかどうかわからないですけど……。でも、最高の褒め言葉をいただきました。

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篠井 本当にそう思います。だから、エリオットという現代の青年を演じても、存在感というか肝の据わり方が違うと思うんですよね。そもそも歌舞伎の役者さんたちって、現代劇の役者と違って、365日のうち下手したら300日ぐらいは舞台に立っている人たちでしょう。身体がもう舞台で生きるっていうふうにできちゃってるんですから、正直言って僕ら敵わないですよね。舞台に出てくるだけで、そこにいるだけで、何かこう大きな力がある。それを読み合わせだけでも感じました。身体に染み付いているものはすごいと思います。

右近 そういうものなんですね……。

篠井 ご本人は緊張してドキドキしてますっておっしゃってるけど、『えい!』ってやるしかない、物怖じのなさ、潔さというものをすでにお持ちになっているんですよね。だって、これまでも、何かやるときは、『自分しか頼るものがない』『僕は僕を信じるしかない』と思ってやってこられたでしょうし。それはかけがえのない力だと思います。

右近 確かに、もともと僕の性格としては内気でシャイで緊張しいなので、何かやるときはいつも、その反動でいくっていう感じなんです。最も顕著なのが今回で、ある意味、オーヴァードーズを起こしてるようなものなんですけど(笑)。でも、そこで萎縮しないで、最初からきれいな盆栽になろうとせずに伸び放題に伸びるということがまず僕のやるべきことだと思っているので。演出のG2さんはじめみなさんに、整えてもらえたらいいなと思っているんです。

 

  • 役は関係で作られる

 

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篠井 右近さんがもともとは内気な性格なんだというのは、とてもエリオット的ですよね。エリオットも本当にナイーブで、そんな人がイラク戦争に行くことになって人を殺してしまうという普通じゃない経験をしたんだから、鎮痛剤中毒になったというのも、人間の痛みとしてとてもわかりますよね。

右近 繊細さゆえですよね。

篠井 そうだと思います。ピュアでナイーブだから、お母さんに対しても、屈折した気持ちはありつつ、愛おしいとも思うし、頼りにしたいとも思うし、守ってあげたいとも思うし、いろんな複雑な思いを持っている。そこは右近さんがもともと持っているやさしさとかナイーブさと重なりますよね。

右近 リンクする部分はあるなと、最初に本を読んだときから思っていました。

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篠井 だから、すばらしいキャスティングなんだと思います。

右近 エリオットという役に選んでいただいたのかもしれません。これからのお稽古で、強くそう思えるようにしていきたいですし、エリオットの内面をきちんと表現できるように精進していきたいですね。みなさんの台詞を聞いていると、自分の内面を打ち明ける瞬間に絶妙の間合いがあって、すごく勉強になりました。そこまでの自分の心を整理というものがこういう間として生まれるんだな、こうやってお芝居をお作りになるんだなって。

篠井 僕も、みんな必死で自分の役と向き合ってきたんだなと思いました。みんなのお芝居を聞いてなるほどと思ったこともたくさんありましたね。やっぱり、自分がこういうふうに演じようと思っていても、相手がどう出てくるかで変わっていく。そして、お客様はそのふたりの間に生まれる関係を観ているわけだから、結局、相手役さんがどういうふうに自分と接してくれるかで、自分の役は形作られていくんですよね。だから、そういう意味で、おー、みんな初日からけっこうやってきたなと(笑)。

右近 確かに僕も、従姉のヤズミンに乗っかっていく感じがありました。隣同士に座らせていただいて、これからこの距離がどんどん縮まっていくのかと、それも楽しみになりましたね。初めてお会いしてこんな近い役を演じるなんて、すごく不思議な感覚ですけど。

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篠井 歌舞伎の世界だと、だいたいみんな親戚だからね。お互いにこんな小ちゃいときから知ってるぞって(笑)。

右近 はい。だいたいみんなのことわかってるぞって(笑)。だから、役の関係性としての距離感も最初からおおよそのところは作れるんですけど、今回は初めましてですから。自分からも歩み寄っていかなきゃいけないっていうのは、新鮮で楽しみです。今日も、いつ話しかけたらいいんだろうと思いながら南沢さんに話しかけることができたので、今日だけでかなり鍛えられた気がします(笑)。

篠井 もうね、行け行けって感じです(笑)。演出のG2さんもとてもやさしくて開放的で決めつけたりしない方なので、言いたいこと言って、聞きたいこと聞けばいいだろうし。僕なんかはもう何度もご一緒していることもあって、まず提示してみて、よければ何も言わないだろうし、何かあれば言うだろうし、と思ってやっていますけど。

右近 僕は基本的には、歌舞伎では自分で決めていく習慣があるので、それとは逆に、G2さんとお話しながら進めていけたらなと思っています。そこでいろんなことを提案できるように、自分のなかでいくつかパターンを考えてしておきたいなと。

篠井 右近さんは右近さんのやりようでやっていけば大丈夫。

右近 そこらへんは自由なんですね。

篠井 自由、自由。リラックスしてやればいいと思いますよ。

右近 じゃあって言うのも変ですが、まずご飯に連れて行ってください(笑)。

篠井 そうそう、そういう親睦も大事。おいしいもの食べに行きましょう。

右近 エリオットとオデッサの、台詞の裏にある愛情深いつながりを作るためにも(笑)、ぜひお願いします!

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【ぴあ×パルコステージ特別企画『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』尾上右近密着取材vol.4】稽古場レポート

現代劇に初挑戦する歌舞伎役者・尾上右近さんへの密着企画もいよいよ大詰め。第4回目となる今回は、立ち稽古の模様をレポートします。目撃したのは、右近さん演じるエリオットが、いとこのヤズミン(南沢奈央)とともに実母のオデッサ(篠井英介)のもとを訪れる大事なシーン。そこに居合わせたジョン(葛山信吾)も巻き込んで、おかしくて哀しくて愛おしい場面が立ち上がっていきました。

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そして、第4回目のあらすじでは、稽古に登場したジョンについて紹介します。オデッサが運営するコカイン中毒者が集まるサイトに新しく現れ、みんなから鼻持ちならないと思われた人物が、いかに人々とつながっていくか。誰もが孤独感を感じながら生きている現代に、希望をもたらします。002


■STORY■

エリオット(尾上右近)の実母であるオデッサ(篠井英介)は、コカイン中毒から立ち直ろうとする人々が集うサイトを運営していた。そのチャット・ルームに、[ミネラルウォーター]というハンドルネームを持つジョン(葛山信吾)が現れた。41歳、白人。コンピューター・プログラマーとして起業した会社を最高潮のときに売却して莫大な利益を得、次に入社した会社も退社したが、金と時間は持て余すほどあるという。なのにいつのまにかコカインに手を出していたジョン。救いを求めてチャットに入るも、その恵まれた環境や、プライドの高さが伺える投稿が、もともとチャット・ルームにいた[オランウータン]ことマデリーン(村川絵梨)や[あみだクジ]ことウィルスキー(鈴木壮麻)には受け入れてもらえない。唯一誠実な言葉をかけてくれたオデッサを呼び出し、ジョンはチャットでは言えなかったことを告白する。そんなジョンを、オデッサもまた信頼したのだろう。息子と会って過去の罪が甦り、6年ぶりにコカインを吸って入院したオデッサは、緊急連絡先にジョンを指定した。オデッサの介抱を任されたジョンは、彼女の力となることで、自分自身も前を向いて歩いて行こうと決意する。

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■稽古場レポート■

物語の主人公であるエリオット(尾上右近)は、イラク戦争で負傷して帰還し、今はサンドウイッチショップのサブウェイで働きながら俳優を目指している青年。ある日育ての親である伯母のジニーが亡くなったことで、彼の人生に変化が訪れようとしていました。その始まりとなるのが、これから繰り広げられる場面です。

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舞台はフィラデルフィアのとある食堂。ハンドルネーム[ミネラルウォーター]ことジョン(葛山信吾)が、入ったばかりのサイトの運営者であるオデッサ(篠井英介)をここに呼び出していました。自身のコカイン中毒について何か相談があってのことに違いないのだが、プライドの高い彼はなかなか切り出せない様子。それを承知したうえで何とか力になろうとするオデッサ。そこへやってきたのが、エリオットと、彼が頼りにしているいとこのヤズミン(南沢奈央)です。ふたりがオデッサを訪ねたのは、オデッサの姉でありエリオットの育ての親であるジニーの葬儀の花代を、オデッサに払ってもらうためでした。しかし、お金などないと突っぱねるオデッサ。その険悪な空気に耐えかねたのか、自分のお金を出そうとするジョン。だがそれが、エリオットをさらにムカつかせてしまいます。何しろ、この目の前にいるコカイン中毒者のためには何だってしようとするオデッサは、息子の自分のことは放ったらかしにしてきたのです。エリオットはつい、ジョンの前で、かつてオデッサが自分の娘を放置して死なせたことを暴露し、長年募らせてきた思いをオデッサにぶつけてしまいます。そんなエリオットをなだめるかのように、そしてオデッサの心を動かすかのように、やさしかったオデッサの思い出を語るヤズミン。それを聞き終えたオデッサは、自分のパソコンを売って花代にしてほしいと言い置いて出て行くのでした。

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そこまで一気に通したあとは、演出のG2さんの出番です。少々手厳しい言葉も飛び出しました。この場面で起きているのは、もっとギスギスとしたぶつかり合いなのだというG2さん。ジョンはもっと高飛車にオデッサを見下す感じがあっていい。エリオットはもっとキツくオデッサに当たっていい。その母子の罵り合いの間に入っておろおろするヤズミンと、事情がよくわからずにお金を出そうとするジョンのおかしさも、そこに生まれるというわけです。そして、そんな修羅場に見え隠れするのは、エリオットとオデッサが抱えてきた哀しみとすれ違う親子の愛情。こんなふうに傷つけ合わなければ前に進むことができない彼らに、自分自身の人生の痛みも重なっていくのではないでしょうか。

休憩をはさんで再び同じ場面を繰り返します。エリオット役の右近さんは、先ほどとはまったく違う動きを見せ始めました。立ったままオデッサを責め、ジョンにもグッと近づき、苛立ちがよりクリアになっていきます。

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この場面にヒリヒリとした緊張感があればあるほど、それぞれがのちに見つけ出す希望も際立つはず。私たちも感情のうねりを直に感じ、ともに清々しいラストを迎えられるに違いありません。

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