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【ぴあ×パルコステージ特別企画】『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』尾上右近密着取材 vol.6】ゲネプロ レポート

現代劇に初挑戦する歌舞伎役者・尾上右近さんに密着してきたこの企画もついに最終回。開幕前日に行われた公開ゲネプロと囲み取材のレポートをお届けします。尾上右近という役者の、そしてこの『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル〜スプーン一杯の水、それは一歩を踏み出すための人生のレシピ〜』という作品の成長を目の当たりにすることができたゲネプロ。本番でのさらなる進化を、ぜひその目でお確かめください。

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また、今回は、登場人物のうち、コカイン中毒者が集まるサイトのメンバー、マデリーンを中心としたストーリーをご紹介。日本で生まれてアメリカに里子に出されたという過去を持つ彼女は、日本初上演となるこの作品の観客にとって、大いに親しみを感じさせる存在となるはずです。

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■STORY■

[オランウータン]というハンドルネームで、エリオット(尾上右近)の実母・オデッサ(篠井英介)が運営するサイトのユーザーとなっているマデリーン(村川絵梨)。ここしばらくログインがなく、仲間の[あみだクジ]ことウィルスキー(鈴木壮麻)も心配していたところ、久しぶりに登場した彼女は、今、日本にいるのだと打ち明ける。マデリーンは日本の釧路で生まれた日本人で、生後9日目に里子に出され、アメリカで育っていたのだ。そして、コカイン中毒から抜け出そうと里親にすべてをさらし、彼らから送られてきた片道航空券で日本へと飛び立ったマデリーン。だが、生みの親の居場所を突き止め、そこに向かおうとするも勇気が出ない。そんなとき助けを求めたのが[あみだクジ]だった。ふたりがオンラインの世界を出て現実につながろうとしていたその頃、アメリカでも、エリオットの育ての親が亡くなったことをきっかけに、彼の従姉のヤズミン(南沢奈央)、サイトの新メンバーである[ミネラルウォーター]ことジョン(葛山信吾)を巻き込みながら、エリオットとオデッサにも変化が起ころうとしていた。

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■公開ゲネプロ レポート■

エリオット(右近)と従姉のヤズミン(南沢)が生活しているリアルな世界と、エリオットの実母オデッサ(篠井)が管理している、薬物依存からの克服を目指す人々が集うオンラインの世界が、交錯しながら進んでいくこの物語。

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ゆるやかに傾斜した八百屋舞台には、[俳句ママ]ことオデッサの自宅ソファ、[あみだクジ]ことウィルスキー(鈴木)の会社デスク、[オランウータン]ことマデリーン(村川)がいる札幌のインターネットカフェの椅子が埋込み状態で配置されています。そこに、エリオットが働いているサンドウィッチショップや、ヤズミンの勤め先である大学の教室など、様々な装置が舞台袖から現れ、ふたつの世界は違和感なく切り替わっていきます。

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ログオンとログオフの音も効果的。俳優たちの身体表現を伴うチャット・ルームでの会話は彼らの心情をリアルに伝え、なかでも、プライドが高そうな[ミネラルウォーター]ことジョン(葛山)が新しく入ってきたときの[あみだクジ]と[オランウータン]のあからさまな冷ややかな態度は、観客も共感を覚えざるを得ないようなおかしみが漂ってきます。

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また、そんなユーザーたちを包む[俳句ママ]が、作品に温かさをもたらしてくれます。

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だが、リアルな世界ではオデッサも、さらにギスギスした人間関係にさらされてしまいます。息子のエリオットが、育ての親の死をきっかけに会いに来るのです。Photo_13

そこで見せる右近さんの芝居には圧倒されます。オデッサのコカイン中毒が原因で自分は見捨てられたのだと、タイトルにある“スプーン一杯の水”をめぐる話を告白するエリオット。オデッサを冷たくにらみつける瞳、その目に浮かぶ涙が、彼の激情を台詞以上に雄弁に語ります。

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さらには、気の置けないヤズミンとの会話で見せる豊かな表情や、イラク戦争で抱えたトラウマを象徴する幽霊(陰山泰)に対する慄きなど、初めての現代劇にもかかわらず、実に繊細に心を動かしていることが見てとれる右近さん。

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それに呼応する南沢さんの包容力がまた、どう生きていいのかわからなかったエリオットの背中を押していきます
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面白いのは、この物語の世界では最も爪弾きにされていた[ミネラルウォーター]が、息子に怒りをぶつけられたオデッサを支える存在となり、それとともにみんなが一歩を踏み出していくこと。どんなに弱くてもどうしようもなくても、誰もが誰かの力になり得るし、自分で自分を動かすことはできるのです。それぞれがどんな道を見出し、エリオットがどんな希望をつかむのか。彼らの一歩はきっと、観る側にも強い足跡を残すはずです。
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■囲み取材■

ゲネプロ終了後、キャスト7名が全員揃い、取材に応えました。
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まずは歌舞伎にはないゲネプロを経験した右近さん。「厳しい空気を感じ、精神状態は完全にオーバードーズでした(笑)。明日からの本番は、お稽古でみんなで作り上げたことを守りながら、そのときに起きる自分の感情を乗せてとにかく踏み出してみようという気持ちでやっていきたいと思います」。右近さんのその心境を聞いた村川さん。「普段堂々とされていて緊張とかしないんだろうなと思っていた右近さん……この現場では“けんけん”ってみんな呼んでるんですけど……けんけんが今日、『ヤバイ、吐きそう』って言ってたので、ちょっと安心できました(笑)」と笑わせました。

作品については、南沢さんが「読めば読むほど、『この台詞はどういう意味なんだろう』と謎が生まれてきて、みんなでディスカッションしながら理解を深めてきた作品です。それが実際に観てもらってどう伝わるのか、すごく楽しみ。人種も環境も違う登場人物が、最後には人とのつながりの温かさを感じていく。そんな普遍的なところがつながればいいなと思っています」とアピールします。葛山さんも「お客さんの反応に乗せられて自分たちもまた変わっていくと思います。どういうお芝居になるのか、本当に楽しみな作品です」と続け、陰山さんは「手強い脚本ですが、読んだときにこれは絶対面白くなるぞという予感がありました。また、僕の幽霊という役は、ちょっとずつ出てきて、実はスプーン一杯ずつ水を与える役ではないだろうかと思っているので、これからまだまだ深めていきたいと思っています」と真摯に話します。ネットの世界の住人を演じるうえで、「空間の取り方に苦しみ悩んだ」というのは鈴木さんです。「ネットと現実での人間の関わりというものがどんなふうに伝わっていくのか楽しみですし、僕の役も最後に現実の世界で人と関わる瞬間があって、そのとても愛おしいひとときを大事にしながら、みなさんと素敵な舞台を作っていきたい」と語りました。

そして、エリオットの実母オデッサ役を女形として演じる篠井さん。「演劇ならではの女形です。みなさんの想像力を掻き立てるように演じて、この母子の関係の、とても微妙な細やかな綾が伝わるといいなと思っています。たぶんみなさん、『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』って何のこっちゃという感じだと思いますが(笑)、その答えを確かめにぜひ劇場にいらしてください。内容は少々重いかもしれませんが、私たちのチームワークの良さと温かさがわんわんと出るはずですし、泣けますよ(笑)」と観客に向けて、やさしさとユーモアあふれる呼びかけをしました。

最後に右近さんが締めくくります。「現代劇の難しさは型がないことにあると感じています。歌舞伎には洗練された型があって、初役でも先輩から型を教わってその役として存在できますが、現代劇では自分で型を作ってそこに存在しなければいけない。それはまだ未完成だと思いますし、僕はもちろんのこと、第一線で活躍なさっている百戦錬磨の先輩方ももがきながら作ったお芝居ですので。千穐楽の大阪公演までもがき続けながら、みなさんと一緒に走り抜けたいと思っています」。

右近さんはこれまでも、大きな壁を力に変えてきました。この密着企画でも、緊張をバネにしていると何度も語ってくれました。ひとりの役者のその飛翔を目にするチャンスは、そうそうあるものではありません。皆さんにもその瞬間に立ち会っていただきたいです。

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